精子提供による出生、提供者情報を100年保存する法案提出へ
超党派議員連盟がまとめた生殖補助医療立法の法案について解説します。
投稿日: 2022年03月27日
生殖補助医療にまつわる課題
TQ-SEED 運営の YUKA です。久々のブログ記事投稿となってしまいました。今回の記事は、最近報道があった生殖補助医療立法の内容についてです。
解説に入る前に、日本国内の生殖補助医療関連の法整備状況について軽く触れておきます。
生殖医療における生命倫理に関わる分野において、日本は法整備が遅れています。 生まれた子どもの法的な親子関係を定めた民法特例法が 2020 年 12 月に成立していますが、技術の進歩、生殖医療ビジネスの拡大、多様な性のあり方に対するルールや制度の不在が長年続いてきました。
日本産科婦人科学会は以下のような組織が必要であるとして、提案を行ってきました。- 生殖医療が進むべき方向に関する継続的な議論の必要性
- 医師資格や医療施設の認定、実態の調査、個人情報の管理、相談受け付けなどの実務
このような組織が必要であるということは、2003 年ごろから厚生労働省の審議会で指摘されていましたが、2022 年に至る今となっても組織の成立において大きな進展は見られていないのが実状です。 以下のような課題が山積する状態になっています。
- 出自を知る権利の保障
- 「命の選別」に繋がりうる出生前検査のあり方
- 代理出産の是非
- 法的な夫婦以外が正当に生物学的な子を持つ方法
出自を知る権利と代理出産については前述の民法特例法の付則で「おおむね 2 年」で検討すると定められていました。
法案の内容
出自を知る権利に配慮
独立行政法人が、以下の情報を 100 年間保存するという形で、生まれた子どもの出自を知る権利に配慮するようです。
- 氏名
- 住所
- 生年月日
- マイナンバー
情報の保存の対象になる人は以下になります。
- 提供を受けた夫婦
- 出生した子ども
- 提供者(精子または卵子)
子どもが成人して提供者の情報開示を希望した際、独立行政法人は提供者本人に問い合わせ、回答を得た範囲で子どもに伝えるとしています。(提供者が生存している場合に限る)
ただ、回答するかどうかは提供者次第としており、完全には出自を知る権利が保証されていないように見えます。
生殖補助医療を受けられるのは法的に婚姻した夫婦のみ
今回のたたき台では、生殖補助医療を受けられる対象を法律的に結婚している夫婦に限定しています。 同性カップル、選択的シングルマザーは今回の法案の枠組みには含まれていません。
さらに、夫婦の中でも以下のいずれかに該当する場合に限定しています。
- 第三者の精子提供による人工授精
- 第三者の精子と妻の卵子を用いた体外受精
- 夫の精子と第三者の卵子を用いた体外受精
厚生労働相の認定・許可が必要に
第三者の精子提供、または卵子提供による人工受精、体外受精を行う医療機関、精子や卵子のあっせん機関は厚生労働相の認定、許可が必要としています。
精子、卵子の売買、あっせんの対価を受け取ることを禁止
利益目的の精子提供、精子・卵子・胚の売買を禁じる規定、違反した場合の罰則規定も盛り込まれています。
提供者が提供できる数に上限を定める
一人の提供者が提供できるのは子ども 10 人までとし、上限を設ける案が有力となっているそうです。
これは近親婚へのリスクに配慮しているものと思われます。
まとめ
今回の内容について、イメージ図としてまとめてみました。
小さくて見づらい場合はこちらで画像を拡大して閲覧してください。
今後の動き
議員連盟のメンバーは今回の法案のたたき台を各党に持ち帰り、法案作りに繋げていくようです。ただ、生殖補助医療に対して慎重な立場を取っている保守派の議員も多く存在しているため、すぐに法案が立法に至るかどうかは不透明です。
あとがき
日本では同性婚が認められていません。性的マイノリティ(LGBTQ)の方にとって、今回の夫婦に限定された法案骨子の内容はあるべき形から遠ざかっているようにすら感じられるかもしれません。 公布後5年をめどに対象者の範囲は検討する、としていますが現時点の法案では法的に婚姻した夫婦に限定されており、それ以外の子どもを持ちたいと望む人達が置き去りになっているように思います。
出自を知る権利については、まったくもって完全ではありませんが権利を保障しようという流れになってきているため、生まれてくる子どもの権利が無為にされてしまう可能性が減っていくことになるとは思います。
全員が納得できるような枠組み作りというのは難しいのかもしれませんが、議論や法整備が進み、今まで望んでも子どもを持つことのできなった人、配偶子の提供によって生まれる子どもが一人でも多く救済されることを願っています。