精子提供と法律

精子提供における日本国内の法整備状況、課題について解説します。

投稿日: 2021年05月27日

精子提供と法律

精子提供に関連する法律とその課題

以前の記事「精子提供にまつわるリスク」で紹介したリスクには、 傷害罪のように不当な行為が認定されれば直ちに犯罪になるものもあれば、 経歴を詐称しても財産上の利益を得ていなければ詐欺罪として成立しないために個人間で解決しなければならない類の問題もあります。

また、精子提供自体だけでなく、その結果として生まれる子供への法的な権利の所在、出自を知る権利が課題となってきました。 本記事では、これらの法整備状況について解説します。

さらに詳しく知りたい方向けに、ページ末尾に参考資料を載せておきました。ご利用ください。

精子提供と不法行為

刑法で定義されている犯罪は精子提供の過程とは一切関係なく適用されます。しかしながら、それ以外のケースでは民事裁判など、個人間で争うことになります。 医療機関を利用したとしても問題が起こり得る中、国内の法整備が思うように進んでいないのが現状です。

親子関係

精子提供で生まれた子供の父親と母親は誰になるのでしょうか?法的な親子関係を規定している法律は民法です。

旧来の民法は人工的な生殖や精子提供による親子関係を想定していませんでしたが、国内でも法整備が徐々にではありますが始まっています。

精子提供によって生まれた子供の法的な親は誰になるのか

2020 年 12 月に可決された生殖補助医療法では、出産をした女性を母親としています。また、父親は出産した女性と婚姻関係にある男性になります。 婚姻関係にある夫婦が法的な親となり、卵子や精子の提供者が親にならないということです。

では、結婚していない女性が精子提供を受けて妊娠・出産した場合、どのような扱いになるのでしょうか。

選択的シングルマザー、LGBT カップルが精子提供を受けた場合

選択的シングルマザー、LGBT(性的マイノリティ)カップルが精子提供を受けた場合、出産した生物学的な女性が法的な母親になりますが、父親は存在しない扱いとなり、非嫡出子となります。

同性婚は日本では認められていないため、LGBT カップルの場合出産した人しか親権者になることができません。

支援制度についてですが、非嫡出子であっても児童手当は受給できます。さらに、児童扶養手当のような追加の補助金・手当を受給することもできます。

出自を知る権利

自身の遺伝上のルーツを知る権利を「出自を知る権利」と言います。

日本における出自を知る権利の現状

2021 年 5 月現在、この権利を保障する法律は日本にはありません。外国の法整備が進んだ国と比較して、親権や扶養義務、権利行使の手続きについてほとんど整理されていません。

2020 年 12 月に可決された生殖補助医療法には出自を知る権利の規定はないものの、附則の中で「おおむね 2 年を目途として検討」と記載されています。生殖補助医療のあり方を考える超党派の議員連盟が立ち上がっており、今後検討が進められていくものと思われます。

参考資料

関連する日本の法律、ガイドライン

各国の非嫡出子割合

2016 年時点 OECD Family Database より

国名割合
チリ72.7%
アイスランド69.6%
メキシコ67.1%
フランス59.7%
スロベニア58.6%
ブルガリア58.6%
ノルウェー56.2%
エストニア56.1%
スウェーデン54.9%
デンマーク54.0%
ポルトガル52.8%
オランダ50.4%
ベルギー49.0%
チェコ47.7%
イギリス47.7%
ハンガリー46.7%
ニュージーランド45.9%
スペイン45.9%
フィンランド44.9%
オーストリア42.2%
アメリカ39.8%
アイルランド36.7%
ドイツ35.5%
オーストラリア34.0%
カナダ33.9%
イタリア31.5%
ポーランド25.0%
スイス24.2%
クロアチア18.9%
ギリシャ9.4%
イスラエル6.8%
トルコ2.9%
日本2.3%
韓国1.9%

出自を知る権利の保障がある国の例

上記より抜粋

国名内容
イギリス18 歳以上なら
精子ドナーの個人を特定できる情報の開示請求が可能
ドイツ16 歳以上なら
精子ドナーの個人を特定できる情報の開示請求が可能
オーストリア14 歳以上なら
精子ドナーの個人を特定できる情報の開示請求が可能
ニュージーランド精子ドナー、
提供を受けた人、
生まれた子供が
お互いの情報を得る権利を認めている


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