出自を知る権利

精子提供などで生まれた子供の出自を知る権利について解説します。

投稿日: 2021年07月20日

出自を知る権利

以前の記事、「精子提供と法律」でも取り上げましたが、国内でも徐々に出自を知る権利について話題になる場面が増えてきました。 本記事では、国内外の出自を知る権利の保障状況ついて解説します。

出自を知る権利とは

出自を知る権利は、自らがどのようにして生まれたのか、遺伝的なルーツはどこにあるのかを知る権利のことです。

海外の状況

海外では、徐々に精子ドナーの匿名性を無くし、出自を知る権利に配慮する国が増えてきています。 台湾のようにドナーの匿名性を法的に保障する地域もありますが、今回は出自を知る権利を保障している事例を紹介します。

オーストラリア・ビクトリア州の事例

オーストラリアのビクトリア州は、生殖補助医療が進んでいる地域で、最初期の体外受精児の大半(16 人中 12 人)はビクトリア州の州都、メルボルンで誕生しています。

20 世紀末にはすでに出自を知る権利に関する法整備が進められ、18 歳になればドナーの身元を特定する情報を入手できるようになっていました。 その後紆余曲折あった結果、2017 年からは年齢制限なし、ドナーの同意も不要な公的機関による出自を知る権利の保障が認められるようになりました。

公的なキャンペーンも行って州民の理解を醸成した上で法整備を進めており、親から子へ、ドナーによって懐胎した事実を伝えるべき理由として以下を上げています。(VARTA, 2010)

  • 医学的問題が、子の遺伝的構成をいつか明らかにしてしまうかもしれない
  • 秘密は、長く隠しておくのが難しい
  • 他の者からその事実について聞かされることは、子にとって破壊的でありうる
  • 子たちは、大人になって自らがドナーによって懐胎されたことを知ることが考えられる
  • 愛情ある関係は、誠実さと真実に基づく

詳しくは YouTube の動画で経緯を含めて詳しく説明されていますので、ぜひご覧ください。

また、ビクトリア州においても当初はシングル女性、レズビアン女性の生殖補助医療へのアクセスは認められていませんでしたが、現在は性的指向、婚姻、宗教、人種による制限、差別をしないことが前提となり、認められるようになっています。

フランスの事例

2021 年 6 月に、未婚の女性であっても人工授精の医療を受けられるようになったフランスですが、出自を知る権利についてもこのタイミングでドナーの同意を必要としない形に改められました。

出自を知る権利の保障がある国の例

上記より抜粋

国名内容
イギリス18 歳以上なら
精子ドナーの個人を特定できる情報の開示請求が可能
ドイツ16 歳以上なら
精子ドナーの個人を特定できる情報の開示請求が可能
オーストリア14 歳以上なら
精子ドナーの個人を特定できる情報の開示請求が可能
ニュージーランド精子ドナー、
提供を受けた人、
生まれた子供が
お互いの情報を得る権利を認めている

国内の状況

国会議事堂

日本国内では、最近まで出自を知る権利に関して法整備が進まないままでした。人工授精を行っている医療機関が精子ドナーを確保することが難しくなったり、精子提供で生まれた当事者が法整備の必要性を訴えたりといった状況が生まれていました。

そんな中、2021 年 7 月に超党派の議員連盟が素案をまとめ、国会に提出する動きが出てきました。海外の事例であるような、公的機関がドナーの情報を保持する方向で調整しているようです。

ただし、現状では法的に婚姻した夫婦に限定されたものになっており、選択的シングルマザーや LGBT カップルを含んだ法案が成立するのは同性婚が認められていない日本ではさらに後になりそうです。

参考情報

2003 年の生殖補助医療技術に関する意識調査がまとめられています。出自を知る権利の調査項目があり、結果がまとめられています。

出自を知る権利について取り上げた 2006 年の研究ノートです。

2020 年 12 月に成立した国内の生殖補助医療に関する法律です。


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